Coiney - お店のキャッシュレス、はじめよう

コミュニティプロジェクト 【静岡】

伊豆で生まれたトレイルランニング大会にみるサスティナブルな観光資源の可能性

  • シェアする
alt

五輪開催も間近に迫り、全国各地で観光資源の活用に躍起になる地域が散見されるなか、地元の観光資源を生かしたスポーツ大会がある。伊豆で開催されている『伊豆トレイルジャーニー(以下、ITJ)』だ。2019年に7回目を数える本大会がひときわ輝く理由は、サスティナブルな方法で観光資源を生かそうとする試みだ。プロデューサーの千葉達雄(ちば・たつお)氏に話を聞く。

出身地伊豆の魅力を再発見し大会を着想

alt

大学時代に陸上競技を経験したことからもともと体を動かすのが好きだった。大学卒業後就職した大手外食チェーンを早々に退職。「好きなことを気の向くままに」ダイビング、水泳、プールの監視員などを転々とした。

その後地元の伊豆に戻り、地域振興を手がけ始めた。転機が訪れたのは『伊豆アドベンチャーレース』に出場した時のこと。「地元なので土地勘があるだろうと思って参加したら大間違いだった。大自然をコンパクトに体験できる伊豆半島はすごいところなんだなと感じさせられました」。

2007年、千葉氏は観戦に訪れた箱根の大会『THE NORTH FACE エンデュランス ラン OSJ ハコネ 50K』でトレイルランニングに出会う。「スポーツ、アスリートというイメージからかけ離れた平和な雰囲気や体験のストーリー性に衝撃を受け」、「これを伊豆で開催すれば持続的な取り組みにできるのではないか」と希望を持った。偶然にもそれから2年後の2009年に差し掛かる頃、世間もトレイルランニングに湧いていた。NHKで放送された『激走モンブラン!~166km山岳レース~』を契機にさまざまなトレイルランニング大会が勃興したのだ。『激走モンブラン!~166km山岳レース~』で第3位を獲得した本大会でコースプロデューサーを務める鏑木毅(かぶらぎ・つよし)氏とも意気投合、いよいよ第一回大会にむけ走り始めるが、新たな困難が待ち受けていた。

当時勤めていたスポーツマネジメント会社ではイベントの主催、鏑木氏のマネジメントなどを事業として提案したが却下。それでも背中を押したのが震災だった。「ご覧のとおり伊豆は、津波が来たら逃げ場所のない土地です。あの震災のような災害に襲われれば、二度とこのような大会を開催するチャンスに巡り合えないかもしれない。でも、一度でも開催しておけば再開することができるだろうと」。意を決して2012年1月末、会社を辞め、後ろ盾が全くない状態でITJの開催を目指し始めることになる。

ハローワークに通いながら関係者を説得し続けた

alt

苦難は続いた。かねてから千葉氏と交流がありITJ開催を応援した町長の鶴の一声で始まったことが災いしたのか、現場からは疑問の声が少なくなかった。「人口6000人の町に1000人の参加者が本当に集まるのか、と心配されました。」その他にも会場の環境保護への懸念の声などハードルは無数にあった。当時無職で後ろ盾がないことも仇となった。「ハローワークに通いながら頭をさげる日々。第一回の開催は、一週間前まで本当にできるのかわかりませんでした。」通常このような大会で事前に発送される地図なども作成が追いつかなかった。「電話が鳴りっぱなしでした。『本当に開催されるのか?』『大丈夫なのか?』と。」それでも開催した第一回目で、確かな手応えを得て、7回目を数える今回までITJを開催している。

alt

サスティナブルな大会理念を表す、4つの「レス」

第一回の大会から、「持続可能な伊豆の新たな旅」を掲げ開催している。多くの旅行客を雑多に集めるマスツーリズムは、効率がいいように見えて単価が低い上環境負荷も高く、持続可能性が低い。それに対しコアな旅行客に高単価で密度の高い時間を過ごしてもらうエコツーリズムの提案としてこの大会に取り組んでいるのだ。このコンセプトを礎にして2019年からは新たに4つの「レス」を宣言した。

alt

ペットボトルや使い捨て容器の廃止を目指すプラスチックレス、チケットやチラシなどの印刷物を撤廃するペーパーレス、会場の飲食ブースやバスツアーにCoineyの決済端末を導入したキャッシュレス、誰でも参加できるよう手話を含めた多言語に対応したボーダーレス。参加者や運営サイドの評判も上々だ。「レース参加者に評判だったのはペーパーレス。大量の紙のチラシはわずらわしかったのでしょう。運営サイドの飲食ブースの方にはキャッシュレスが喜ばれました。手数料がハードルで当初は導入をしぶっていても、実際に需要があることを目の当たりにすると価値を感じてくれたようです。」当日のキャッシュレス利用人数は現金利用者とほぼ同じ数に並んだ。大会終了後に申し込みをする店舗もあった。「プラスチックレスに関してはこれから協賛企業のロゴを入れたリユース食器を作りたい。外国人の参加者もまだまだ在日外国人の方がほとんど。これから伸ばしていける」と目論む。

地理的な制限がある観光業にさす一筋の光

alt

「この大会を愛好者むけだけのコミュニティにするつもりはないんです。トレイルランニングというコンテンツで人を集め、伊豆でどんな旅の体験をしてもらうかを提案しているつもりです。」そのビジョンからは、難航しがちな観光業、地域振興へのヒントが隠されている。「観光業は、場所に縛られるからこそ今の時代にどう対応していくかが鍵。ITJをトレイルランニングの大会で終わらせず、参加者やそのまわりにいる人、運営サイドの関係者などに新しい価値観を与えるものに育つように意識しているんです。」

この言葉を体現するかのように、第七回大会では自らエコカップを自作して持参した参加者の様子がSNSで見て取れたり、地元の観光従事者の外国人観光客への受け入れ姿勢の変化が見られたりと確実な変化が起こっている。価値観を内側から変化させる体験が、長らく魅力を発揮しつづける真の観光資源を生み出していく。